不二子はどこへ行く
いつも不二子はバイクに乗って去ってゆく・・・
彼女は一体どこへ向かって、どこへ帰るのだろうか?
そのあまりに印象的なシルエットシーンだけが先行して実際の不二子の実態はベールに包まれたままである。
緑ジャケットファーストルパンの峰不二子とセカンドシリーズの不二子は別人である。
セカンド不二子は金だけが好きでルパンを利用するただの性悪女になってしまっていた。
バイクシーンも無く高級車で動くエセセレブである。
やはり峰不二子は謎の女であったファーストルパン版である。
その不二子のモデルになったと言われているThe Girl On A Motorcycle「あの胸にもう一度」のマリアンヌ・フェイスフルMarianne Faithfull・・・・
しかし現実には不二子はいない・・・
不二子もアンヌ・フェイスフルが演じたヒロインも男が作り上げた幻想であり理想である。
その男好みのナイスバディの肉体をレザースーツに包み込み自分の元へバイクで身を運び、はいどうぞとばかりにツルンとそのつなぎを脱いで事が済み男が満足し寝ているうちにいつの間にかバイクで去っている・・・・
つまり「鴨が葱を背負ってくる」事だ。
都合の良い女の象徴なのだ。
実際男の存在抜きで本当にバイクが好きで乗っている女って実際はかなり少ないんではなかろうか?
大抵彼氏が乗っている旦那が乗っているってんでが多いような気がする俺の周りは・・・・・
幼い頃住んでいた大きな団地の同じ棟に謎の住人がいた。
市営の団地だったので大抵住人の家族構成は似たり寄ったりなのだが、その住人だけは明らかに違った。
若い男女・・・無論若い夫婦は他にもたくさん住んでいたのだが、大抵は子供がいた。
それに普通の若夫婦に比べまた更に若いのだ・・・お兄さんお姉さんって感じだった。
18〜23ぐらいか・・・まったくその他住人との交流が無いので二人が夫婦なのか兄弟なのかはまったく誰もわからないようだった。
いつ住み着いたのか、わからない・・・・・でも他の住人とはまったく空気が違っていた・・・・
何故そんな二人を覚えているかって言うとその二人はライダーだった・・・
団地の裏庭スペースに二台のバイクが寄り添うように並んで停めてあった・・・
当時はまだ女のライダーは珍しかったのだ・・・子供らにとってみれば仮面ライダーやその他ヒーロー物に出てくるサブキャラの女ライダーぐらいしか知らなかった。
それにバイクってのも家族連れで構成されている団地では珍しかった・・・
どの家もクルマだったのだ・・・・・・
男の方は夜遅く帰宅するのか滅多に姿を見る事は無かったのだが、お姉さんの方は夕方子供が遊んでいる時間帯に帰って来る時があった。
大抵井戸端会議中のオカンらの興味津々の視線に晒されて軽く会釈してすぐに部屋へ入ってしまう・・・
入ったらもう静かなもので生活の音すらしないらしく、他の部屋からはテレビや当時急に流行ったエレクトーンの下手な練習の音が垂れ流されている中でひっそりと音一つしない、一体どんな生活しているのかもわからなかった・・・・・
夜出掛ける事も稀で、休日は朝早くから二台ともいない・・・・・・
そんな静かに生活している人が何故そんなに周囲に注目されていたかと言うと・・・
そうなのだ・・・このお姉さん・・・かなり美形だった・・・
子供心に綺麗な人だなぁ〜って思ったものだ。
自分ではそんな気は無かったろうが目立った・・・・・ダーク色の服装ばかりだったが、それがまたその美貌を際立たせた・・・・・
日本人離れしたエキゾチックな顔立ちは明らかに外国の血が流れていた。
何でこんな一般の団地にこんな目立つ人が住んでいるかは不明だが、明らかにその他ママさんらとは違う人種に見えた。
スラッとした体付きながらナイスバディで当時それが普通のライダーウェアのピチッとしたつなぎっぽい革の上下姿にマフラーはかなり注目された。
おじさんらは皆鼻の下をのばしていたようだ。
面白くないのはママさんら・・・
やっかみもあるようで色んな中傷陰口を叩いていたようだ。
子供に伝わって来るそのお姉さんの話もいい話は聞いた事がない・・・・
恋人同士のふしだらな同棲とか・・・その日本人離れした美貌に、あれは混血の孤児だとかも・・・・・
言いたい放題である。
子供心に団地のおばさんらは嫉妬しているのがわかった。
バイクも非難された・・・危ないとか、子供が遊んでいる横を平気で走って通るのはどうかとか・・・とにかく当時はバイク乗っているだけで風当たりが強く暴走族とか言われた時代・・・
ロックは悪魔の音楽でバイクは悪魔の乗り物だったのだ。
その上美人で若い・・・
とにかく何から何まで気に入らないようだった。
バイクの種類は忘れたし知らなかったが、オフロードみたいなバイクでそんな凶暴なバイクでは無かったと思う・・・
夕方ジェットヘルを被って歯切れのいい排気音で帰って来るお姉さんはかっこよかった・・・
それこそ夕日にシルエットが映えて峰不二子みたいである。
遊んでいる子供、その他歩行者のそばを通る時は最徐行で気を付けている様子が俺にはわかった・・・
夜や早朝、休日朝にバイクの排気音が聞こえないのは多分エンジン掛けるのに騒音を出さないように遠くまでひきずって行ってから掛けたからだろう・・・・・
ちなみに後にその団地から引っ越して住んだ郊外の家の近所の不動産屋のオヤジは休日朝は必ず自慢のハーレーの爆音を撒き散らして悦に入っていたっけ・・・・・休日朝は近所中がその爆音で起こされた・・・・・・
そんな成金ハーレーオヤジは世間的にでかい顔が許されて、そんな静かで控えめなバイクライフを過ごすお姉さんは近所から目の敵とは・・・・・・
バイクを停めてヘルメットを脱ぐと夕日に染まった亜麻色の髪がこぼれ落ち映画のワンシーンみたいで子供なのに見とれてしまった事もあったっけ・・・
冬場の長い髪の時も夏場のショートカットも絵になった。
所帯じみた団地でまったく生活感の無い住人・・・もしかしたら本当にモデルさんだったのかも知れない。
冬場のつなぎ姿も夏場のジーンズ姿も自然体で様になっていて、そのまま雑誌に載ってもいいぐらいだった。
俺は夕刻団地前でたむろして井戸端会議しているおばさんらの好奇な視線に晒されて、ちゃんと礼儀でヘルメットを脱いでペコリと頭を下げて一礼し去るお姉さんが気の毒に感じた。
そんな態度も気に入らないのか一瞥して一礼を返した後お姉さんが部屋に去ると「何よあれ〜」とおばさんらの悪口が始まるのが常だった。
まったく生活感の無い年齢国籍不詳の謎の女性・・・
そして際立った美貌・・・・・
夕飯の買い物でスーパーや市場で出会った事も無かった・・・かと言って帰って来る時バイクに買い物して来た荷物も見受けられなかった・・・
地方都市のそんな街でも近所にネオン管のペプシコーラやビールロゴなんかがカウンターにディスプレイされているようなアメリカンなダイナー形式の洒落たスナックがあって近所の人らは行かなかったけどきっとお姉さんみたいな人らが行くんだろうなぁ〜なんて勝手に思っていた。
それ程お姉さんは俺にとってかっこいい象徴だったのだ。
友達らは自分のオカンにそのお姉さんと交流を持つ事を禁じられていたが、俺のオカンは基本的にさっぱりした性格で陰口等を嫌う人だった。
俺はお姉さんがバイクで帰って来る度、頑に無視している友達らと違い、興味津々でお姉さんを見ていた。
正確に言えば見とれていた。
お姉さんも自分がこの団地で浮いている事を感じているらしく、こちらに接触はして来なかったのだが、俺が好意的なのを見抜き俺にバイクで通り過ぎる際に微笑んでくれるようになった。
俺も最初戸惑ってモジモジしてしまったけどそのうち嬉しくてニッコリ笑って返すようになった。
あれはいつだったろうか・・・団地の並木の柳が丸坊主だったので冬だろうか?
その日俺は一人で外にいた・・・
何故かいつもまとわり付いて来る妹もいなかったし、一緒にローラースケートして遊ぶ友達も誰一人外で遊んでいなかった・・・
俺は退屈で一人で団地の前でガーガーとローラースケートして遊んでいた。
すると珍しく昼間なのにお姉さんのバイクが停めてあった・・・
俺は興味があったのでそのバイクに近付いて行き、しげしげと見ていた・・・・
バイクは危ないモノと言われ俺や友達らはバイクに近付く事も禁じられていた。
仮面ライダーやキカイダーで興味津々な乗り物であったのだが大人らが頑なに禁じるので叱られるのが怖くてそばに寄らなかったのだ。
まだチビのガキンチョの俺にしてみれば新聞牛乳配達の原付カブでさえ大きく感じるので、そんな中型排気量のオフロード系バイクなんざ馬みたいにでかく感じた。
何でも大人がダメだ禁止だと言ったモノほど子供にとって魅力的で興味があるモノは無い・・・・・
こわごわハンドルやシートに触ってみたりしていると、後ろから「コラッ!」と声がして俺はびっくりして文字どおり飛び上がった・・・
足にはスケート履いていたので転びそうになった。
声の方を見てみるとあのお姉さんが黒っぽいつなぎでヘルメットを手にぶら下げてイタズラっぽい目で笑っていた・・・・・
俺は妙に慌ててしまってどうして良いものかと固まってしまった・・・
「乗りたい?」と叱られるとばかり思っていた俺に思わぬ言葉が・・・・
初めて聞くお姉さんの声はややハスキーであった。
笑うとパッチリ大きな目がアーモンド型になった。
数分後、団地内の敷地を初めてバイクの後ろに乗せてもらって走っている俺がいた・・・
風が顔に当たる・・・
お姉さんのヘルメットを被せてもらい後ろからしがみついていた・・・・
当時はまだヘルメット強制では無い時代、風になびく長い髪が俺の顔をくすぐる・・・・
何かお姉さんの良い香りと髪の良い香りも俺をくすぐる・・・・
しがみついているつなぎ越しの明らかにオカンとは違うお姉さんの弾力のある柔らかい体付きも感じる。
そんな思いをよそに俺を乗せたお姉さんのバイクは走る。
こわいぃぃ〜!けど気持ちいいぃぃ〜!寒いぃぃ〜!けど気持ちいいぃぃぃ〜!と全てが反作用する世界・・・・・・
実際は安全な低スピードだったろうが、初めて乗る俺にしてみれば周りの景色が飛んで行くように見えるスピードだ・・・・
A棟からS棟まである広大な団地の敷地はあっと言う間に回りきり、ど真ん中に位置する公園、給水塔もあっと言う間に過ぎ去った・・・・
顔見知りの団地の同級生らが驚いて俺達を見ている・・・信じられないって突っ立ったまんま羨望の眼差しであった。
数分の夢の時間はあっと言う間に終わった・・・・・
お姉さんが何故そんな大胆な行動に出たのかはわからない・・・
子供乗せて走ったなんて近所の連中から何言われるか、どんなに自分の立場が悪くなるかわからないのだ・・・
実際俺のオカンに告げ口はすぐに届いたようで俺は叱られた。
お姉さんと交流を持った事ではない、バイクは危険だって頭がオカンにはありそれで無断で乗った俺を叱ったのだった・・・
無理矢理乗りたいとせがんだと何故かお姉さんを庇う俺・・・・
俺とお姉さんは風に身をさらしたと同時に羨望と嫉妬にさらされ告げ口されたのだ。
みにくいアヒルの子はその醜さからつまはじきにされたけど、間違いなくお姉さんは白鳥でその美しさからつまはじきにされたのだ。
そして俺は一瞬であれその綺麗な白鳥と同じ位置にいたために嫉妬されて告げ口された。
まったく人ってのは情けない生き物だと思った。
羨ましいのならその場に来て素直に俺も私も乗せてと言えばよいではないか・・・・・
数日後、いつも停めてあったお姉さんのバイクともう一台のバイクは消えていた・・・・
いつの間にか引っ越してしまったらしい・・・
バイクに乗せてもらった日、その場に脱ぎ捨ててすっかり忘れていたローラースケートは俺の自転車に上手に結ばれていた・・・・・
今ではもう60ぐらいだろうか・・・
でも俺の中ではお姉さんはいつまでも変わらぬ美貌でバイクを駆っているのだ。
彼女は一体どこへ向かって、どこへ帰るのだろうか?
そのあまりに印象的なシルエットシーンだけが先行して実際の不二子の実態はベールに包まれたままである。
緑ジャケットファーストルパンの峰不二子とセカンドシリーズの不二子は別人である。
セカンド不二子は金だけが好きでルパンを利用するただの性悪女になってしまっていた。
バイクシーンも無く高級車で動くエセセレブである。
やはり峰不二子は謎の女であったファーストルパン版である。
その不二子のモデルになったと言われているThe Girl On A Motorcycle「あの胸にもう一度」のマリアンヌ・フェイスフルMarianne Faithfull・・・・
しかし現実には不二子はいない・・・
不二子もアンヌ・フェイスフルが演じたヒロインも男が作り上げた幻想であり理想である。
その男好みのナイスバディの肉体をレザースーツに包み込み自分の元へバイクで身を運び、はいどうぞとばかりにツルンとそのつなぎを脱いで事が済み男が満足し寝ているうちにいつの間にかバイクで去っている・・・・
つまり「鴨が葱を背負ってくる」事だ。
都合の良い女の象徴なのだ。
実際男の存在抜きで本当にバイクが好きで乗っている女って実際はかなり少ないんではなかろうか?
大抵彼氏が乗っている旦那が乗っているってんでが多いような気がする俺の周りは・・・・・
幼い頃住んでいた大きな団地の同じ棟に謎の住人がいた。
市営の団地だったので大抵住人の家族構成は似たり寄ったりなのだが、その住人だけは明らかに違った。
若い男女・・・無論若い夫婦は他にもたくさん住んでいたのだが、大抵は子供がいた。
それに普通の若夫婦に比べまた更に若いのだ・・・お兄さんお姉さんって感じだった。
18〜23ぐらいか・・・まったくその他住人との交流が無いので二人が夫婦なのか兄弟なのかはまったく誰もわからないようだった。
いつ住み着いたのか、わからない・・・・・でも他の住人とはまったく空気が違っていた・・・・
何故そんな二人を覚えているかって言うとその二人はライダーだった・・・
団地の裏庭スペースに二台のバイクが寄り添うように並んで停めてあった・・・
当時はまだ女のライダーは珍しかったのだ・・・子供らにとってみれば仮面ライダーやその他ヒーロー物に出てくるサブキャラの女ライダーぐらいしか知らなかった。
それにバイクってのも家族連れで構成されている団地では珍しかった・・・
どの家もクルマだったのだ・・・・・・
男の方は夜遅く帰宅するのか滅多に姿を見る事は無かったのだが、お姉さんの方は夕方子供が遊んでいる時間帯に帰って来る時があった。
大抵井戸端会議中のオカンらの興味津々の視線に晒されて軽く会釈してすぐに部屋へ入ってしまう・・・
入ったらもう静かなもので生活の音すらしないらしく、他の部屋からはテレビや当時急に流行ったエレクトーンの下手な練習の音が垂れ流されている中でひっそりと音一つしない、一体どんな生活しているのかもわからなかった・・・・・
夜出掛ける事も稀で、休日は朝早くから二台ともいない・・・・・・
そんな静かに生活している人が何故そんなに周囲に注目されていたかと言うと・・・
そうなのだ・・・このお姉さん・・・かなり美形だった・・・
子供心に綺麗な人だなぁ〜って思ったものだ。
自分ではそんな気は無かったろうが目立った・・・・・ダーク色の服装ばかりだったが、それがまたその美貌を際立たせた・・・・・
日本人離れしたエキゾチックな顔立ちは明らかに外国の血が流れていた。
何でこんな一般の団地にこんな目立つ人が住んでいるかは不明だが、明らかにその他ママさんらとは違う人種に見えた。
スラッとした体付きながらナイスバディで当時それが普通のライダーウェアのピチッとしたつなぎっぽい革の上下姿にマフラーはかなり注目された。
おじさんらは皆鼻の下をのばしていたようだ。
面白くないのはママさんら・・・
やっかみもあるようで色んな中傷陰口を叩いていたようだ。
子供に伝わって来るそのお姉さんの話もいい話は聞いた事がない・・・・
恋人同士のふしだらな同棲とか・・・その日本人離れした美貌に、あれは混血の孤児だとかも・・・・・
言いたい放題である。
子供心に団地のおばさんらは嫉妬しているのがわかった。
バイクも非難された・・・危ないとか、子供が遊んでいる横を平気で走って通るのはどうかとか・・・とにかく当時はバイク乗っているだけで風当たりが強く暴走族とか言われた時代・・・
ロックは悪魔の音楽でバイクは悪魔の乗り物だったのだ。
その上美人で若い・・・
とにかく何から何まで気に入らないようだった。
バイクの種類は忘れたし知らなかったが、オフロードみたいなバイクでそんな凶暴なバイクでは無かったと思う・・・
夕方ジェットヘルを被って歯切れのいい排気音で帰って来るお姉さんはかっこよかった・・・
それこそ夕日にシルエットが映えて峰不二子みたいである。
遊んでいる子供、その他歩行者のそばを通る時は最徐行で気を付けている様子が俺にはわかった・・・
夜や早朝、休日朝にバイクの排気音が聞こえないのは多分エンジン掛けるのに騒音を出さないように遠くまでひきずって行ってから掛けたからだろう・・・・・
ちなみに後にその団地から引っ越して住んだ郊外の家の近所の不動産屋のオヤジは休日朝は必ず自慢のハーレーの爆音を撒き散らして悦に入っていたっけ・・・・・休日朝は近所中がその爆音で起こされた・・・・・・
そんな成金ハーレーオヤジは世間的にでかい顔が許されて、そんな静かで控えめなバイクライフを過ごすお姉さんは近所から目の敵とは・・・・・・
バイクを停めてヘルメットを脱ぐと夕日に染まった亜麻色の髪がこぼれ落ち映画のワンシーンみたいで子供なのに見とれてしまった事もあったっけ・・・
冬場の長い髪の時も夏場のショートカットも絵になった。
所帯じみた団地でまったく生活感の無い住人・・・もしかしたら本当にモデルさんだったのかも知れない。
冬場のつなぎ姿も夏場のジーンズ姿も自然体で様になっていて、そのまま雑誌に載ってもいいぐらいだった。
俺は夕刻団地前でたむろして井戸端会議しているおばさんらの好奇な視線に晒されて、ちゃんと礼儀でヘルメットを脱いでペコリと頭を下げて一礼し去るお姉さんが気の毒に感じた。
そんな態度も気に入らないのか一瞥して一礼を返した後お姉さんが部屋に去ると「何よあれ〜」とおばさんらの悪口が始まるのが常だった。
まったく生活感の無い年齢国籍不詳の謎の女性・・・
そして際立った美貌・・・・・
夕飯の買い物でスーパーや市場で出会った事も無かった・・・かと言って帰って来る時バイクに買い物して来た荷物も見受けられなかった・・・
地方都市のそんな街でも近所にネオン管のペプシコーラやビールロゴなんかがカウンターにディスプレイされているようなアメリカンなダイナー形式の洒落たスナックがあって近所の人らは行かなかったけどきっとお姉さんみたいな人らが行くんだろうなぁ〜なんて勝手に思っていた。
それ程お姉さんは俺にとってかっこいい象徴だったのだ。
友達らは自分のオカンにそのお姉さんと交流を持つ事を禁じられていたが、俺のオカンは基本的にさっぱりした性格で陰口等を嫌う人だった。
俺はお姉さんがバイクで帰って来る度、頑に無視している友達らと違い、興味津々でお姉さんを見ていた。
正確に言えば見とれていた。
お姉さんも自分がこの団地で浮いている事を感じているらしく、こちらに接触はして来なかったのだが、俺が好意的なのを見抜き俺にバイクで通り過ぎる際に微笑んでくれるようになった。
俺も最初戸惑ってモジモジしてしまったけどそのうち嬉しくてニッコリ笑って返すようになった。
あれはいつだったろうか・・・団地の並木の柳が丸坊主だったので冬だろうか?
その日俺は一人で外にいた・・・
何故かいつもまとわり付いて来る妹もいなかったし、一緒にローラースケートして遊ぶ友達も誰一人外で遊んでいなかった・・・
俺は退屈で一人で団地の前でガーガーとローラースケートして遊んでいた。
すると珍しく昼間なのにお姉さんのバイクが停めてあった・・・
俺は興味があったのでそのバイクに近付いて行き、しげしげと見ていた・・・・
バイクは危ないモノと言われ俺や友達らはバイクに近付く事も禁じられていた。
仮面ライダーやキカイダーで興味津々な乗り物であったのだが大人らが頑なに禁じるので叱られるのが怖くてそばに寄らなかったのだ。
まだチビのガキンチョの俺にしてみれば新聞牛乳配達の原付カブでさえ大きく感じるので、そんな中型排気量のオフロード系バイクなんざ馬みたいにでかく感じた。
何でも大人がダメだ禁止だと言ったモノほど子供にとって魅力的で興味があるモノは無い・・・・・
こわごわハンドルやシートに触ってみたりしていると、後ろから「コラッ!」と声がして俺はびっくりして文字どおり飛び上がった・・・
足にはスケート履いていたので転びそうになった。
声の方を見てみるとあのお姉さんが黒っぽいつなぎでヘルメットを手にぶら下げてイタズラっぽい目で笑っていた・・・・・
俺は妙に慌ててしまってどうして良いものかと固まってしまった・・・
「乗りたい?」と叱られるとばかり思っていた俺に思わぬ言葉が・・・・
初めて聞くお姉さんの声はややハスキーであった。
笑うとパッチリ大きな目がアーモンド型になった。
数分後、団地内の敷地を初めてバイクの後ろに乗せてもらって走っている俺がいた・・・
風が顔に当たる・・・
お姉さんのヘルメットを被せてもらい後ろからしがみついていた・・・・
当時はまだヘルメット強制では無い時代、風になびく長い髪が俺の顔をくすぐる・・・・
何かお姉さんの良い香りと髪の良い香りも俺をくすぐる・・・・
しがみついているつなぎ越しの明らかにオカンとは違うお姉さんの弾力のある柔らかい体付きも感じる。
そんな思いをよそに俺を乗せたお姉さんのバイクは走る。
こわいぃぃ〜!けど気持ちいいぃぃ〜!寒いぃぃ〜!けど気持ちいいぃぃぃ〜!と全てが反作用する世界・・・・・・
実際は安全な低スピードだったろうが、初めて乗る俺にしてみれば周りの景色が飛んで行くように見えるスピードだ・・・・
A棟からS棟まである広大な団地の敷地はあっと言う間に回りきり、ど真ん中に位置する公園、給水塔もあっと言う間に過ぎ去った・・・・
顔見知りの団地の同級生らが驚いて俺達を見ている・・・信じられないって突っ立ったまんま羨望の眼差しであった。
数分の夢の時間はあっと言う間に終わった・・・・・
お姉さんが何故そんな大胆な行動に出たのかはわからない・・・
子供乗せて走ったなんて近所の連中から何言われるか、どんなに自分の立場が悪くなるかわからないのだ・・・
実際俺のオカンに告げ口はすぐに届いたようで俺は叱られた。
お姉さんと交流を持った事ではない、バイクは危険だって頭がオカンにはありそれで無断で乗った俺を叱ったのだった・・・
無理矢理乗りたいとせがんだと何故かお姉さんを庇う俺・・・・
俺とお姉さんは風に身をさらしたと同時に羨望と嫉妬にさらされ告げ口されたのだ。
みにくいアヒルの子はその醜さからつまはじきにされたけど、間違いなくお姉さんは白鳥でその美しさからつまはじきにされたのだ。
そして俺は一瞬であれその綺麗な白鳥と同じ位置にいたために嫉妬されて告げ口された。
まったく人ってのは情けない生き物だと思った。
羨ましいのならその場に来て素直に俺も私も乗せてと言えばよいではないか・・・・・
数日後、いつも停めてあったお姉さんのバイクともう一台のバイクは消えていた・・・・
いつの間にか引っ越してしまったらしい・・・
バイクに乗せてもらった日、その場に脱ぎ捨ててすっかり忘れていたローラースケートは俺の自転車に上手に結ばれていた・・・・・
今ではもう60ぐらいだろうか・・・
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| 2012-03-07 00:58
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