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その男Glass-Jaw-Hopperグラス・ジョー・ホッパー

L字

大学卒業後しばらくバイトをしていた。

就職活動をせずに俺は渡航費を貯めていたのだった。

当時はまだ「フリーター」なんて言葉が出たてだったが自分じゃ目標があったので自分がそのフリーターだとは思っていなかった。

いろんなバイトをしながら生きていた20代中半の俺・・・・・

大学時代の仲間は皆就職して慣れぬ職場で悪戦苦闘していたが就職もせずにバイト生活の俺を変わり者を見る目でやや上から目線で接しているのは肌で感じていた。

皮肉なもので今は完全に立場逆転で当時就職した彼らは皆ドロップアウトしてしまっていて家庭を持ちまっとうに会社勤めしているのは俺だけになった。


当時のバイトでハウジングセンターがあった。
住宅展示場のバイトだ。

俺が家を売るわけではないが、展示物件の掃除なんかをするスタッフであった。
それでも作業着を着ているわけではなくて大学入学時にしつらえた適当なジャケットネクタイでせっせと掃除メンテナンスをしていたのだ。

当時はまだバブル真っ盛り・・・・・どんな物件も売れているようだった。
今だと2千万クラスの家が7千万とかとんでもない値段で売っていた。

一軒の家にはいろんな業者が関わっている。
俺の雇い主はその展示場のメンテナンスを請け負う業者で同じ社員に見えても不動産屋からの出向やら家自身のメーカーから出張っていたりして、そのメーカーもバブル時に筍のように出現して商売していた。
大手有名メーカーの物件の仲介メーカーも絡んで色んな利権を盛り込んで潤っていたのだ。
大手家電屋売り場で客側からはその家電屋社員に見えてもそれぞれのメーカー出向派遣社員が客対応しているのに似ている。


そんな展示場の物件で家の中のドアノブがL字型のノブが設置されているのが多かった。
高級そうで見た目が良いからだと思うのだがこのノブがクセモノでしょっちゅう家の中に案内した来客の袖に引っかかってビリッと袖を破ったり、廊下を走り回る子供のフードや服の一部なんかに引っかかって転ばせて怪我させたりしたのだ。

問題起こすのは全て同じドアノブメーカーである。

その度客は怒ったりしたのだが接客係社員はバブルの申し子みたいなボンクラばかりでテキトーに謝罪なんかして処分しちっとも改善しようとしなかった。
その些細な事で客は購買をためらい結局売れる物件も売れなかったりした。

それでも時代はバブル・・・・・売り上げ減少しても本社からそんなに問題にはされなかったようだ。

俺はバイトながらそのL字型ノブを普通のタイプに代えた方が良いのではなんて進言したのだが、まったく企業努力しようとしない社員らはアフター5の遊びの事ばかり頭にあって「ああ~そうね~」なんて言ってバイトが何言ってやがるなんて態度で相手にしなかったのだ。
大抵住宅展示場は郊外にあったので社員らは勤務時間が終わるやいなや都心部に繰り出していった。
もしくは住宅展示場の客用駐車場に金を掛けた自分のハイソカー、大抵誇らしげに自動車電話のブーメランアンテナを立てた白いクラウン、ソアラ、マークⅡ、チェイサー、プレリュード、BMWなんかが停めてありそのまま愛車でサッサと遊びに出掛けて行ってしまう。


その後俺は日本のバブル崩壊を海外放浪中に耳にし海外で働いた後無残に好景気が崩れた日本に帰国した。

かつてのその住宅メーカーは潰れ、かつての住宅展示場は駐車場に変わっていた。

夏草や兵どもが夢の跡


危険なL字ドアノブ・・・・・それはもしかしたらバブル崩壊の警鐘だったのかも知れない。

その小さなドアノブのお陰で不当に高い家を買わなくて済んだ人も多かったのだ。


L字ドアノブ「幸運のカギ尻尾」かな?



by Glass-Jaw-Hopper | 2012-02-20 22:50 |

ガラスの顎のリスクでジャンプし続けるバッタ
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