しわだらけの黄色いハンカチ
あるアメリカの老朽化したビルにネズミが大量発生し、やむなくビルの住人を退去させビルごと爆破するっていかにもアメリカらしい合理的な解決シーンを見させる番組だ・・・・・
しかし、もっとその非情なまでの合理さを感じたのは、そのビルの名前・・・・・
「低所得者専用アパート」・・・・・・・・・
オイオイ~そりゃ無いよなぁ~
人の住処指して低所得者専用なんて・・・・・いや・・・低所得者専用だから入居したのか???
でも住民は自分の住所を言う時「何丁目の低所得者専用アパート204」とか言うのか?
手紙出す時も「何丁目低所得者専用アパート204」とか書くのか?
あちらの感性はイマイチ理解に苦しむ今日この頃である。
俺の小さい頃住んでいた団地・・・・・
マンモス団地だったが、その端っこにあった建物・・・・・
そこの入り口には大きな木の看板があって、そこに筆書体で書いてあったのは
「母子寮」・・・・・・
今じゃシングルマザーも珍しいものではないけど、当時はまだ珍しかったのか・・・・・
でもそんなに公言せんでもいいじゃん~
「母子寮」って・・・・・・・
とにかくそのエリアは別世界であった・・・・・・
造成地に繋がる前庭には母子寮の子供らが屈託無く日が暮れるまで遊んでいた・・・・
埋め立てする前は前に池もあってザリガニが採れたりして俺にとってそのエリアは未知の冒険エリアだったのだ。
初めて韓国の子と知り合って遊んだのもここだ。
そこで何故か仲良くなった母子寮のメイちゃん・・・・・・
団地の子供と母子寮の子供はどこか隔たりがあったのだが、俺は小心者の癖に妙にそのへんの垣根を無防備に越えてしまう所がある・・・・・・
サイパンでも周りの日本人ダイバーはホテル内のレストランで食事を取っているのに対して俺は平気で現地の人らが食事する食堂に入って行った・・・・・
ちょっと向こう側が驚いていた・・・引いていたのかも知れないが・・・・・・
最後はフレンドリーになってくれた・・・・・・・
でも・・・・・
きっと海外でいらん事件に巻き込まれるタイプなのかも知れないな・・・・・・
脳天気でアホな日本人代表だ・・・
メイちゃんのお母さんはちょっと歩いた所にある大きな喫茶店で働いていた・・・・・
「ろワール」ってファミレスの走りみたいなお洒落な大型喫茶店でウェイトレスをしていたのだ。
その間メイちゃんは一人で待っているわけなのだが、それが当たり前になってしまっているのか屈託無く過ごしていた。
俺にはお父さんが居ないって事がよく理解出来なかった・・・・・
遊んでいる時一緒にお母さんが働いている喫茶店を覗きに行った事もある。
お化粧してお洒落なユニフォームのお母さんは随分若く見えた。
俺がメイちゃんと遊んでいる事はオカンには内緒であった。
男らしく育てようとしていたオカンは俺が女の子と遊ぶのを嫌った。
一度小さい女の子と遊んで帰って来た俺を遊び直して来いとまた外に出した事があった。
まったく俺にとっては不可解な事であった。
男の子でも年上の子らと遊べと、また無茶を言う・・・・・・・
こうして俺の年下、後輩をまとめる兄貴と呼ばれる才能は削除されていった。
もちろん今カリスマ性の一かけらも無い・・・・・・・
そんなオカンに女の子、それも母子寮の子と遊んできたなんて口が裂けても言えなかった。
中々外部の人は入れない母子寮だが、俺はよくメイちゃんの部屋へ行った。
その内部は団地と違って、まず共同の入り口で靴を脱ぎ、共同の廊下を歩き部屋へ行く作りだ・・・・・・
お風呂も炊事場もトイレも共同・・・それが俺には珍しかった・・・・・・
メイちゃんの部屋は母と子二人暮らしらしく、こざっぱりとしていたが、メイちゃんがお絵描きが好きらしく画用紙とクレヨンが散乱していた・・・・・・
きっとお母さんが帰って来るまでお絵描きして待っているのだろう・・・・・
メイちゃんは黄色が好きで黄色い鳥ばかり描いていた・・・・・・
いつも黄色いカーディガンを着ていたし・・・・・
その稚拙な絵はヒヨコなのか大きな鳥なのかはわからなかったが、画用紙一杯に黄色い鳥を並べて描いていた・・・・・・
メイちゃんの部屋にはテレビも無かった・・・・・・
だから俺も一緒に画用紙を分けてもらい絵を描いていた記憶がある・・・・・・
俺もお絵描きが大好きだったので画用紙とクレヨンがあれば何時間でも遊んでいられたのだ。
メイちゃんのお母さんがいる時、お母さんがちゃぶ台にたくさんのビニールを並べてせっせとアイロン掛けしているのを見た・・・・・・
束をほぐしてビニールの一枚一枚にアイロンみたいな器具で何かしていた。
俺が不思議そうにしていると、お母さんは「これはおばさんのアルバイト」と笑いながら言った。
「アルバイト」って言葉がわからない俺は「アドバルン」と勘違いしてますます混乱したが、とりあえず納得した振りをしていた。
きっと今から考えるとあれは内職だったんだと思う・・・・・・
一度母子寮の部屋にいる時地震があった・・・・・・
俺にとって生まれて初めての地震体験・・・・・
メイちゃんと俺をさっと膝に抱え込んで伏せたおばさん・・・・・
生まれて初めての地震はかなり大きかった・・・・・俺はその揺れを理解できずパニック状態だった・・・・・・
俺より小さいメイちゃんだって地震は初体験だろうけど俺より落ち着いていたっけ・・・・
まだ「揺れて怖い」って感覚が無かったのかも知れない。
何かいい匂いのする若く綺麗なおばさんの膝でメイちゃんと抑えられ初めての地震を体験した俺は、地震が収まると「早くここを出よう!」とメイちゃんとおばさんを促して外に出ようとした。
失礼にもそのモルタルの古い建物特有の現象だと思ってしまったのだ・・・・・・
またここに居たら揺れると思ったのだ。
鉄筋コンクリートの自分の団地か外ならそんな揺れは起こらないと思ってしまっていた。
そんなメイちゃん一家も引っ越して行った。
引っ越す時メイちゃんが以前何かで貸した俺のハンカチを俺に渡した。
多分ビロンと鼻が出たメイちゃんの鼻を拭いてあげてそのまま貸したんだろう・・・・・
正直アホな男の子にとってハンカチなんて持っていてもあまり使う事はないのだ。
タイガーマスクのハンカチは一杯一杯にタイガーマスクがマントを広げた構図で黄色だった。
くしゃくしゃで貸したハンカチは綺麗にアイロン掛けされていた。
きっとおばさんがあの「アドバルン」のアイロンで綺麗にしてくれたんだろう・・・・・・
そんなおばさんの姿を想像してちょっと嬉しかった。
俺はそのハンカチはお気に入りだったんだけど、黄色が好きなメイちゃんにあげた・・・・・・
俺なりの餞別だ・・・
正直アホな男の子にとってハンカチなんて持っていてもあまり使う事はないのだ。
メイちゃんの引越しの理由はお母さんの再婚・・・・・・
相手はアメリカの人だと聞いた・・・・・メイちゃんとお母さんはアメリカに行った・・・・・・
好きな黄色い鳥みたいに飛び立っていったメイちゃん・・・・・・
きっと俺の黄色いハンカチはカリフォルニアの青い空の下で干されて風になびいているに違いない・・・・・・・
それから40年後、実家に戻った時足を伸ばしてかつて済んでいた団地まで車で行ってみた。
当時から随分お洒落なその喫茶店の建築物はまだ残っていたけどまったく違う店になっていた。
by glass-jaw-hopper
| 2012-02-28 00:25
| 楽
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