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その男Glass-Jaw-Hopperグラス・ジョー・ホッパー

誰も信じてくれないけどさ・・・

時は1970年代中半・・・

俺は可愛らしい小学生だった。

当時は小学校校舎の建設ラッシュでありあちこちザクザク鉄筋コンクリートの新校舎が建っていた。

新しい校舎の教室はかなり塗料臭く、今の基準では多分健康を害する数値をはじき出し使用禁止になってしまうような臭さだろう。
それでもそのどこか心地良いシンナー臭いクリーム色の壁の明るい教室でややラリった状態で皆何も疑わず授業を受けていたのだ。

当時新しい校舎のメンテナンスは実に大雑把で雑であった。

廊下の床のメンテは年に何度か一斗缶からワックスをザバーっと一面に引いてモップで引き延ばし拭くのだ。

このトプトプと広がる濃厚な業務用ワックスがよく滑った・・・・・

俺は早速そのワックスを廊下の坂の所にひいて、スキーだスキーだと滑って遊んでいた。
勉強は出来ないがアホな遊びはすぐに思い付くヤツ・・・それが俺だった・・・・

このワックススキー滑り・・・これは小学生にとって楽しい遊びだった。

時々転けてズボンの尻をワックスだらけにしてしまうヤツがいたりして危険でデンジャラスな遊びではあったが遊びはリスクがあってこそ面白かった。

上履きグチャグチャにしながらもツルツル滑って滑降しながら降りていくのは楽しかった。


しかし俺はちょっと滑り降りるのに飽きて更に刺激的な遊びを思い付く・・・・・

ツルツル滑る傾斜面を登っていくのだ。
幼児でも誰かが最初に滑り台を逆走し駆け上り出す・・・それが俺だった・・・・

これは滑り降りるより転ける可能性が高く危険な遊びだった。
失敗するとたたらを踏んで思いっ切りでんぐり返り転ける・・・・・


最初は勢いを付けて駆け上るのに熱中していたが、俺はちょっと面白い現象を発見して皆に「見て見て〜」と披露した。

坂の中半まで登った後ゆっくりそのまま登っている足運びで後退するアクション・・・・・

つまり前進している動作なのに後退している不思議な動きである。
時々人のいない時を見計らってエスカレーターを逆歩きしたりしてそんな動きを楽しんでいたので思い付いたのだ。
低学年時代流行ったローラースケートでもそんなアクションしていたっけ・・・

皆ヤンヤヤンヤと大喝采をくれた。

歩いているように手も動かすと更にユーモラスで効果的である。
皆こぞって俺の真似をしてゲラゲラ笑った。


その中で特に食い付いたのがクラスメイトのS君だった。

彼は研究熱心で更にその不思議な動きに改良を加えてバックしているのに前身しているステップや横動きのアレンジアクションを完成されたのだ。

そして坂が無くても上履きの裏にワックス塗って平坦な床でも似たようなステップが出来る事も発見された。

誰かにトンと押して貰ってツツーッと滑りながら逆向きに歩くのだ。
進んでいる方と足の動きが逆で見ていると面白かった。




S君はその後国立大学教授の父親の転勤でいきなり一家揃ってアメリカに転校していった。

小学生のクラスメイトがアメリカ転校なんて実にセンセーショナルなニュースであった。

数年アメリカで過ごした後また帰国予定ではあるが、帰国と同時に別の場所に引っ越すので別の学校になってしまうのだ。

俺の友達にしては珍しく頭が良く優等生なのにバカな俺と気が合った貴重な友人だったので俺は随分寂しかったっけ・・・・・

例の業務用のワックスを教室入り口にセットして先生を転ばせたのも俺とS君だった。
仲間転ばすつもりが予定外で転んだのは女の先生で白いスカートにベッタリワックスが付いてしまい激怒されてしまった。
スカートのダメージもさる事ながら生徒の前でパンツ丸見えで転けた事も怒ったのだろう・・・・・
その日は一日中その先生は体育用のジャージ着ていたっけ・・・・・


最初の頃やりとりしていた手紙には日本人学校ではなくて普通の学校行っているので「トイレに行きたい」とか全部親に英語で紙に書いてもらって持って行ったりして苦労しているなんて書かれていた。

結局子供の手紙のやりとりなんてすぐに疎通になってしまう・・・
俺も新しい友達らと遊びS君の事は忘れてしまった・・・・・





そして時は流れ1980年代初頭・・・・・いきなりとんでもない大スターが俺達の目の前に躍り出た・・・・

それは「現れた」では無くて正しく「躍り出た」だった。

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日本では最初スズキのLOVEってスクーターのコマーシャルで「ラブ〜マイメッセ〜ジィ♪」と軽快に踊り聞き慣れぬ高音で歌いながらお目見えした彼はあれよあれよと大スターになっていく。

タモリがラジオで「かっこいいんだよねぇ〜」と紹介していたっけ・・・・・

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そしてどこかで見たステップ・・・・・

そう俺とS君が廊下の坂でワックスだらけになって開発したあのステップがステージのボルテージを上げて沸かせていた。

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パクられたぁ〜!!

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あのステップ誕生には諸説あり彼が先輩ブレイクダンサーから教わっただの、ハーレムの子供らのダンスから転用しただのあるが実は日本の地方都市の小学校のワックスだらけの廊下で誕生したのだ。


そう、あのステップを開発したのはこの俺なのだ・・・・・


でもあれは彼に進呈しようと思っている。


名も無き開発者なのだ俺は・・・・・




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by glass-jaw-hopper | 2011-04-12 00:21 | その時歴史は動いたような気が

ガラスの顎のリスクでジャンプし続けるバッタ
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