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その男Glass-Jaw-Hopperグラス・ジョー・ホッパー

朝靄の池

二十数年前・・・・・俺も受験生だった・・・・・

実家の自分の部屋で夜明けまで勉強だってしていた・・・・・

朝まで勉強した後そのままベッドに潜り込んで寝てしまうには目が冴えてしまって眠れなそうな場合は夜明け前の散歩に出掛けた・・・・・・

馴染みの近所の住宅街も早朝は見慣れない町に見える・・・・・・

無人の町だ・・・・・

時々ポロロロロとカブで新聞配達しているバイクぐらいしかいない。


そんな夜明け前のお気に入りの散歩コースは近所の溜め池までのコースだった。

元々開拓前は山や田畑だったこの辺りの名残りの農業用水を溜めるかなり大きな池だ。


俺はそんな大きな池のほとりに立って石を投げる・・・・・




クァァァコォォォォ~ンン~!!

やっと明けて来た池は朝靄がかかって薄暗い・・・・・

池は凍っていて俺の投げた石が池面の氷に当たり、池全体の氷を反響させてこの世の物とは思えない大音響の不思議な音色を響かせるのだ・・・・・・

嬉しくなって何個も石を投げる・・・・・・

その度に

クァァァコォォォォ~ンン~!!

クァァァコォォォォ~ンン~!!
と心に響く音色が湖面全体を共鳴する・・・・・・



暗い受験時代のささやかな楽しみだった・・・・・・


俺はそんな散歩を終えてやっと眠っていたのだ・・・・・・






数年後・・・・・・


俺は既に大学も卒業していた・・・・・・
朝靄の池_c0083518_153686.jpg


中古のスズキの軽自動車での旅の途中・・・・・・

夜通し走った後、俺はある湖の畔に佇んでいた。

寒い季節だ・・・・・缶コーヒーで暖をとる・・・・・・

目の前にはまだ夜が明ける前の湖がある・・・・・・・

うっすらと明けてくると朝靄が湖面を包んで、まるで水墨画のようだ・・・・・・

すっかり湖面は凍っている。



そうだ・・・あの時よくやった石投げをしてみよう・・・・・

溜池であの音量だ・・・・・きっとこの大きさの湖ならそりゃもう凄い音色が響くに違いない・・・・・

ちょっと運転疲れしたこの俺をあの魅惑の音色が癒してくれるに違いない・・・・


俺は足元の手頃な石を探した・・・・・

しかしその辺りは砂利敷きで手頃な石は見付からずかろうじて暗い中探した親指大の石を朝靄の中に思いっきり投げた・・・・・・・




痛っ!なんだぁ~!

どうした?

なんか飛んできたんだ・・・虫かな~




あのクァァァコォォォォ~ンン~!!って音色ではなくてワカサギ釣りのおっさんの声が響いた・・・・・・



俺はそそくさと湖畔からヘッドライトも消したまま車を出して逃げたのだった・・・・・・・
朝靄の池_c0083518_145638.jpg




by glass-jaw-hopper | 2009-02-08 01:29 |

ガラスの顎のリスクでジャンプし続けるバッタ
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